脳の虚血状態が立ちくらみ
「立ちくらみ」とは、急に立ち上がったときに、クラッとめまいを感じることを言います。立ちくらみは、脳へ行く血液が不足したとき、いわゆる脳貧血状態のときに起きます。
「いわゆる脳貧血」と書いたのは、「脳貧血」という言葉が医学的には正しくない言い方だからです。脳へ行く血液が不足した状態(もう少し正確に言うと、脳の血液循環量が不足した状態)のことを、医学的には「脳虚血」と呼びます。
したがって、「立ちくらみ」とは、急に立ち上がったときに、「脳虚血」状態が起きたために生ずる「めまい症状」である、というのが正確な言い方です。
実際に立ちくらみを訴える人の多くは、低血圧症です。
低血圧症の人は、立ち上がった瞬間にもともと低い血圧がさらに下がる(これを起立性低血圧といいます)ために、脳へ流れる血液量が不足して、脳虚血状態が起きやすいのです。
頭位性低血圧といって、頭の位置を急に変化させたときにも、起立性低血圧と同じような状態が起きます。
立ち上がらなくても、横になったまま急に頭の位置を変えたときに、立ちくらみの症状が起きることがあるのはこのためです。
話は飛びますが、あの首の長いキリンが、地上の草を食べている姿勢から、急に頭を持ち上げたときに、なぜ立ちくらみをしないのかを調べた人がいます。その結果、キリンは大変な高血圧症で、頭位性低血圧が起きないことがわかったそうです。
低血圧で注意すること
低血圧症の人は、立ちくらみ以外にどんな症状が出やすいかを、下記の表でチェックしてみてください。
「Yes」が多いほど低血圧症度が高くなります。
低血圧症度チェック
- だるくて、疲れやすい
- 立ちくらみがする
- めまいや耳鳴りがする
- 頭痛や頭重がある
- 肩こりがひどい
- 手足が冷たい
- 脳貧血を起こしたことがある
- 長湯をすると気持ち悪くなる
- 心臓がドキドキする
- 胃のもたれや吐き気がある
低血圧症とは、最大(収縮期)血圧が100未満、最小(拡張期)血圧が60未満の場合をいいます。低血圧症には、ショックなどの場合に見られる一時的低血圧、急性低血圧と、持続的に低血圧が認められる慢性低血圧症があります。
慢性低血圧症には、心臓の病気、重症の感染症、悪性腫瘍、内分泌疾患などの他の病気に伴って起きる症候性低血圧症もありますが、単に「低血圧症」と言うときには、体質的に血圧が低い状態、「本態性低血圧症」のことを言います。
低血圧症の人は、成人全体の数%に見られ、女性にやや多いようです。一般に、血圧が低いだけでは、特別に問題とはなりません。チェック項目にあげたいろいろな症状は、血圧が低いためというよりも、むしろそのような体質に伴う自律神経のバランスの悪さから生じるものが多いようです。
低血圧症の人は、日常生活で、以下のような注意をするようにしてください。
- 一番の基本は、規則正しいリズムのある生活をするように心がけることです。寝不足もいけませんが、寝過ぎも避けるべきです。朝のうち調子が出ない人が多いので、午前中のスケジュールをゆったりしたものにしてください。仕事も含めて、毎日の生活を、自分の体調にあったペースで行ってください。
- 軽い運動と休養の適切な組み合わせがポイントになります。激しい運動は避けて、散歩とかテレビ体操程度の軽い運動を、毎日続けるようにします。
- 乾布摩擦などで皮膚に刺激を与えるのは、血行を良くする作用もあって効果的です。
- 食事については、低血圧症の人は偏食があったり、胃の調子が悪くなりやすいので、バランスのとれた食事を規則的に(時間的にも量的にも)とるようにしてください。
- 入浴は、長湯をしすぎると気持ちが悪くなることがありますので、湯冷めをしない程度に短時間にしたほうが良いようです。
- 立ちくらみ(起立性低血圧)のある人は、急に立ち上がったり、急に駆けだしたり、急激な体位の変換、とくに頭の位置を急に変えることを避けるようにしてください。
- 低血圧症の症状があまりに強いときには、かかりつけ医に相談して、薬を服用することも必要です。